POE形浄水器及びその設置に関するガイドライン:2022

近年,浄水器の普及は「おいしい水」を求めることから,水環境や健康問題が広く喧伝され,「安心,安全の水」への志向が大きくなってきた。従来の台所の給水栓対応だけでなく,家屋内の水道水全般,複数の給水栓で浄水を求める「家中浄水システム化」などに広がりを見せている。

一般社団法人浄水器協会では,かねてより末端の給水栓対応として浄水器に関する自主規制の確立を図ってきたが,家中浄水は家屋内の水道水栓ながら公共水道環境の使用末端であり公的な規制がある一方、私有機器の使用であるとの兼ね合いもありしかるべき対応について検討する必要がある。

「家中浄水システム」「オール浄水」と言う考え方は海外でも認識されており,アメリカにおいては「Point of Entry(POE)」と言う見地から浄水器/浄水システムとして検討されている。

以下,幅広い概念も含めて「複数水栓対応(POE)形浄水器(以下,POE形浄水器という)及びその設置に関してガイドラインを制定する。


適用範囲

このガイドラインは法令への準拠を前提としたPOE形浄水器を製造・販売もしくは設置する事 業者(以下,製造業者又は販売業者という)が順守すべき事項を定めたものである。

制定に当たっては公共水道の末端給水器具として,厚生労働省「給水装置の構造材質の省令基準」及び日本水道協会「給水用具の維持管理指針」を参照した。また,設置・施工・維持管理を含め当事者である所有者または使用者への説明と充分な理解をもって行うこととした。

1. POE形浄水器とその設置の概要

「POE形浄水器」とは,給水管の水道メーター二次側の建物の入り口,あるいは集合住宅などの場合は各個別の家庭への水道メーターの二次側に設置され,家屋内の複数の水栓に給水される水道水中に含まれる遊離残留塩素等の溶存物質を取り除く浄水能力を持つ規模,機能の大きさ(家庭用浄水器として「家庭用品品質表示法」により品質表示が要求される。)が求められ,POE形浄水器の一次側に設置される逆止弁及び遊離残留塩素調整機構で構成される。浄水器の種類としては,連続式浄水器(T形)に分類される。

なお,建築物などでビル全体の浄水化についてはここでは入れない。

注釈1 遊離残留塩素調整機構とは,POE形浄水器がもつ浄水器二次側の給水配管中の遊離残留塩素濃度を調整するための機構であり,水道水の一部をバイパスする機能,遊離残留塩素を再添加する機能などがある。

1.1 POE形浄水器の設置において遵守すべき事項

POE形浄水器及びそのシステムに必要な適法性事項,製業者又は販売業者の確認事項には次のものがある。

a) 水道法,水道法施行規則

b) 家庭用品品質表示法

c) 電気用品安全法(ただし,交流100V以上の電源を使用する場合のみ)

d) 建築基準法

e) 各自治体の定める条例

f) (設置に対して)水道工事施工に対する各自治体の定める条例
(給水装置工事主任技術者を擁する登録水道工事事業所等)

1.2 POE形浄水器の設置において留意すべき水道水の衛生性維持

水道における水道法の遊離残留塩素濃度の保持規制は,衛生性の確保を要求するためにあり個人資産であっても衛生性の確保には留意する必要がある。水道法施行規則第17条では,水道事業者に対して,給水栓において0.1 mg/L以上の遊離残留塩素の確保を要求している。

しかし,各戸の水道メーター近傍での遊離残留塩素の完全除去の場合,水道法施行規則が求めている衛生上必要な措置及び第3項に定める給水栓における遊離残留塩素の保持が出来ないこととなる。

一方,自治体の定める条例及び実態を調査すると,POE形浄水器においては,POE形浄水器及る機器の全てが所有者または使用者の専有物であるため,所有者または使用者の責び設置に使用す任によってPOE形浄水器の設置が行われ,また管理されている事例がある。

この場合,水道法で定める給水栓への0.1mg/L以上の遊離残留塩素を含む給水が損なわれない,衛生性の確保が困難となる場合があるため,給水に対する責任の所在を明確にする必要が水道事業者に生じる。

このため,所有者または使用者には屋内の給水管に対して自己責任の下での管理が求められる。使用者または所有者は,POE形浄水器の設置に際して,所轄の監督官庁・水道事業者(都道府県又は市町村の水道関係部局など)への所定の届け出を行う場合を含めた自主管理宣言が求められている。ただし,条例は自治体による自主法であるため,遊離残留塩素濃度が0.1 mg/L未満の水道水の給水栓への給水を禁じる見解をもつ自治体もある。適法性を考慮した場合,国法である水道法に準拠するPOE形浄水器の設置方法の構築が前提である。

1.3 POE形浄水器の設置及び設置に係る監督公官庁への届け出もしくは合意書類に関する所有者または使用者への告知
1.3.1 POE形浄水器の設置に関する所有者または使用者への告知

POE形浄水器を設置に伴い水道法施行規則に定める末端給水栓への0.1mg/L以上の遊離残留塩素を含む給水が損なわれた状態で屋内配水される可能性があることにより衛生性の確保が困難となる場合,製造業者又は販売業者は,所有者または使用者に対し,POE形浄水器を設置,使用することにより次の事項を告知しなければならない。

a)微生物学的な汚染等のリスクが発生する可能性があること。このリスクは,次に示すような使用状況で特に高くなること。

1) POE形浄水器の使用開始後,長期間の留守または不在が続いて水が滞留した場合。

2) 使用頻度が少ない水栓において,長期的な水の滞留が生じている場合。

3) 夏場等の高温時に水が滞留した場合。

b) リスクをできる限り防止するため,定期的な維持管理を実施すること。

c) 維持管理は,使用者の責任で自身が行うものであること。また,所有者または使用者との契約によって製造業者又は販売業者が定期点検を行う場合においても,所有者または使用者自身が行う日常点検が必要であること。

1.3.2 POE形浄水器の設置に係る監督公官庁への届け出書等に関する告知

POE形浄水器を設置,施工するにあたり,水道法で定める末端給水栓への0.1mg/L以上の遊離残留塩素を含む給水が損なわれ,衛生性の確保が困難となる可能性があるため,使用者または所有者は所管する水道事業者に対し,POE形浄水器の使用に対しての届け出書等の各種書類の提出が必要である。この提出について,製造業者又は販売業者は,所有者または使用者が水道に関する責務を含む専門的知識を有していないことを十分に理解し,使用者または所有者に対しその内容を告知しなければならない。その事項は次のとおりである。

a)当該水道事業者への届け出は,本来,所有者または使用者が行わなければならないが,製造業者又は販売業者が代行して届け出作業を行う場合,水道事業者との合意事項の説明,合意書,免責事項書,申請書等の内容。

b)POE形浄水器の設置に対して所管の水道事業者への届け出書等については,各水道事業者でそれぞれ要求する事項が異なり,水道事業者における適切な対応を行わなければならないこと。

1.4 POE形浄水器の設置に使用する機器

POE形浄水器の設置に使用する機器については,POE形浄水器を使用して各戸又は複数の給水栓へ給水するための全体に使用するものを指し,これには止水栓と採水用給水栓(一次側採水栓)及び故障時又は維持管理時のバイパス装置なども含む。

1.4.1 POE形浄水器の構成及び機器の各部について

POE形浄水器及び設置に使用される機器の名称を表−1に示す。 


POE形浄水器及び設置の例を図−1及び図−2に示す。 


2. POE形浄水器の構造と性能

POE形浄水器の場合,個別対応浄水器に比べ比較的大型であり,末端給水器具としての要件に対する適合性が要求される。例えば,一般的に言われる平均220L/日・人の水道水に使用する浄水器は約80,000L/年・人とした量となり特別な規格が要求される。

2.1 構造的性能;JIS S 3241および厚生労働省「給水装置構造及び材質基準」参照

POE対応浄水器の構造的性能については,JIS S 3241に定める家庭用浄水器の性能に適合すること。具体的な構造的性能は次に示す。

a)耐圧性能
b)水撃限界性能
c)逆流防止性能
平成29年3月公益社団法人給水工事技術振興財団制定の「直結給水における逆流防止システム設置のガイドラインとその解説」参照のこと。逆流防止装置は原則として減圧式逆流防止弁とする。しかし,二次側の屋内配管は既設であり,その圧力損失を見込むと配水勾配等に影響を及ぼすと考えられる場合については,複式逆止弁または単式逆止弁を使用することができる。
d)遊離残留塩素調整機構の性能
POE形浄水器がもつ浄水器二次側の給水配管中の遊離残留塩素濃度を調整するための機構であり,水道水の一部をバイパスする機能,遊離残留塩素を再添加する機能などがある。
e)耐久性能
f)耐寒性能(必要とされる場合)
浄水器としての耐寒性能は,通常は特に降雪などがある寒冷地域等のみで配慮されている。しかしPOE形浄水器は屋外へ設置されることが多く,耐寒性能を満足することが望ましい。これには,寒冷地仕様など特に寒冷地向けの特別仕様を設けること,また,施工上での凍結防止対策を配慮することを含む。
g)浸出性能
h)微生物的汚染に対する対応
POE形浄水器に使用する材料,配管に使用する材料などは,抗菌機能など,微生物に対する抑止効果のあるものを使用することが望ましい。
2.2 POE形浄水器の品質表示

POE形浄水器の品質表示は,販売形態が異なる又は工事として請け負うなどの理由にかかわらず,浄水器としての性能等について家庭用品品質表示法に従った表示を行う。

2.2.1 浄水性能;家庭用品品質表示法参照

POE形浄水器の浄水性能については,JIS S 3241に定める家庭用浄水器の浄水性能に適合すること。具体的な浄水性能は次に示す。

a)ろ過流量
b)浄水能力
浄水器として遊離残留塩素の浄水能力をもつことを要求する。
c)最小動水圧
3. POE形浄水器の設置において実施すべき事項
3.1 POE形浄水器の設置に必要な事項

当該POE形浄水器の製造業者又は販売業者の責任において必要な事項には,次のものがある。

a)POE形浄水器の浄水が給水管に逆流することを防止するため,逆流防止機能を担保することが出来る逆止弁を備えること。

注記 POE形浄水器の一次側に取り付けられた逆止弁は,POE形浄水器に含まれるものとする。
POE形浄水器の設置において使用する配管及び機器に滞留部分が少ないこと。
屋内配管の容量について配慮し,また,管内が滑らかな材料を使用する。POEバイパス配管及び弁を持つ場合は,POE形浄水器の設置に使用する配管及び機器に包含するものとする。

b)遊離残留塩素を確保する場合には,遊離残留塩素濃度調整機構によって,遊離残留塩素濃度の調整が可能な構成であることとする。
3.2 POE形浄水器の施工においての注意すべき事項

POE形浄水器の設置には,水道給水管へ直結することとなるため,これに応じた技能をもつ者が行う必要がある。施工に際しては,次の事項に注意が必要である。

a)施工は,水道工事施工に対する水道事業者それぞれの定める条例に従うこと。指定給水装置工事事業者などの工事資格者が施工するか又は,その監督の下で技能をもつ者が行うこと。
b)施工上の配慮として施工部品などの衛生管理に留意し,配管施工時など,異物の侵入がないようにすること。
c)施工完了後,施工箇所に漏水がないよう,確認作業を厳密に行うこと。特に,一次側採水栓の設置は,水道事業者にとって重要であることを理解し,採水点であることを明示し,かつ使用者に説明を行うこと。
d)POE形浄水器の機能として,2.3 a) に記載する逆止弁が重要であることを理解し,その機能を確認し,維持管理しやすい設置工事とすること。
e)POE形浄水器の機能として,2.3b) に記載する遊離残留塩素濃度調整機構が重要であることを理解し,適切に機能していることを確認すること。
f)POE形浄水器の設置には,POE形浄水器の設置に使用する配管及び機器全体の圧力損失を理解し,既設の屋内の配水に対する影響を十分に把握すること。
特に,低水圧地帯では,POE形浄水器の設置によって,屋内管末での動水圧が確保できなくなる可能性があるため,この場合,当該部分の配管に取り付ける給水用具に影響を及ぼすことがある可能性を所有者または使用者に説明しなければならない。
4. 維持管理

POE形浄水器は日常的及び定期的なメンテナンスを行い,浄水性能,逆流防止性能をはじめ初期の性能を継続的に満足する必要がある。

4.1 製造業者または販売業者の維持管理の種類及び実施

定期的(1年に一度以上)に製造業者又は販売業者が実施しなければならない維持管理については,次の事項とする。

a)定期交換部品(消耗備品)の交換。
b)所轄官庁などへの届け出事項(制約事項等)の厳守。
c)POE形浄水器として水道水中の遊離残留塩素を確保する構造をとる場合は,遊離残塩素濃度を測定し,遊離残留塩素濃度調整機構が機能していることの確認。
d)長期的使用に際しては,屋内配水管に対しての清掃などを含む措置。
e)一次側のPOE逆止弁の適切な維持管理

注記 POE逆止弁の維持管理方法としては,公益社団法人日本水道協会が発行する”給水用具の維持管理指針”がある。

4.2 定期維持管理の重要性の認識及び所有者または使用者への説明 

一般的にPOE形浄水器は,本来水道がもっている微生物的な安全性を阻害する恐れがあると考えられることが多い。製造業者又は販売業者は,POE形浄水器に対して実施する維持管理が微生物的な安全性を担保するために行われるものであることを十分に理解し,これを所有者または使用者に説明し,理解を求める必要がある。所有者または使用者に説明する必要のある事項は,次のとおりとする。

なお,本件については製造業者又は販売業者が説明し,所有者または使用者が説明を受けて理解した旨の記録として,製造業者又は販売業者は所有者または使用者から“所定の説明を聞き,承知した”旨の記録に年月日を記載し,署名された書面を残すことで双方の責任及び義務を明確にする必要がある。

POE形浄水器における維持管理について,所有者または使用者に説明しなければならない事項は次のとおりとする。

a)維持管理の実施が重要で必要なものであること。
b)POE形浄水器の維持管理が水道法に規定される軽微な変更には該当しないこと。

注記  製造業者又は販売業者を含む指定給水装置工事事業者などの工事資格をもつ専門の事業者へ委託されることが望ましいことを説明し,理解してもらう必要がある。

c)浄水吐出口からの微生物・細菌類等の侵入による逆汚染の対策を含むPOE形浄水器の設置に使用する配管及び機器全体に関する衛生性について,使用者が定期的に行わなければならない維持管理があること。
d)維持管理の重要性及びその方法が取扱説明書など明記されていること。
e)維持管理に関わる記録を適切かつ確実に保管すること。
また,POE形浄水器においては微生物・細菌類等の繁殖などリスクがあることから,安全な水質を確保するために,次に示すようなことが重要となる。これらは所有者または使用者が安心してPOE形浄水器を使用するために必要なことである。
f)所有者または使用者に丁寧にリスクを説明すること。
所有者または使用者に安全な管理方法及び運用方法を提示すること。
g)専門業者による点検及び清掃を義務化すること。
4.3 維持管理実施の記録の保管

製造業者又は販売業者が実施した維持管理に関する記録は,適切かつ確実に保管する必要がある。

5. 浄水器協会適合マーク

一般社団法人浄水器協会は,設置に関しての要件を満たした上で,POE形浄水器に対して適合基準により審査を行い,浄水器適合マークの表示を許可する。その際の適合要件は,他の浄水器と同様である。

ただし,以下の点に注意する必要がある。

a)二次側のろ過水の遊離残留塩素を確保する目的で水道水の遊離残留塩素調整機構を有するPOE形浄水器は,試験実施時は,この機能が作動しないようにする。適合マークはこの機能が作動しない状態での性能に対しての許可となる。
b)適合マークは,POE形浄水器の浄水器としての性能とその設置の要件を満たす場合に付与される。
このため,同時に設置に使用される機器を含む全体の維持管理が重要であることから,適 合マークを付与されたPOE形浄水器を中心とする設置に使用される機器を含む全体に対しては,製造業者又は販売業者が責任をもって設計,施工をすることだけではなく責任のある維持管理を行う必要がある。